Theme01
ビジネスとデザイン。
より興味が湧いたのは……?
吉比
青木さんはまだ2年生ということですが、この学校ではどういったことを学んでいますか?
青木
1年目には『ファッションデザイン』と『ファッションビジネス』という2つの領域の基礎を勉強しました。デザインやパターン、アイテム製作のスキルを身につけると同時に、メーカーの企画職やバイヤーといった職種に必要な知識を習得します。僕の場合、2年目からはファッションデザインを専攻したという流れですね。
吉比
入学する時点でファッションデザインだけを選ばなかったのには、何か理由があったのでしょうか。
青木
はい。僕がファッションの業界をめざしたのは高校2年生の頃でした。当時ファッションデザイナーに抱いていた印象は「カリスマ性があって、キラキラした人たち」というものです(笑)。そのイメージがあったので、なんとなく「僕はデザイナーにはなれないだろう」って思っていました。
吉比
なるほど。たしかにファッションデザインの世界は華やかに見えるかもね。
青木
そうなんです。そこでまずはビジネス領域と並行してデザインを学んでから進む道を決めても遅くはないと思いました。実際にファッションデザインをやってみると、どんどん興味が湧いてきて今に至っています。またこの学校には『夜間授業』という制度があって、そこでイラストレーターやフォトショップなどのソフトの使い方も勉強しているところです。今後はデザイン画もデジタルになっていくと思うので。
吉比
夜間授業ではそういったソフトを使ってアパレルのデザインをしているということ?
青木
ソフトの操作を学ぶ時間なので、授業として「ファッション」とか「デザイン」という縛りはありません。例えばマガジンの『ZINE(=ジン)』というテーマで雑誌をつくるという企画がありました。そこで何を取り上げるか、どういった構成にするのかは学生の自由です。
吉比
すごくハイレベルな授業な気がする(笑)。ちなみに青木さんはどういった1冊をつくったの?
青木
僕は洋服を主題にしつつ、デジタルにしかできない表現をしようと思ってつくりました。簡単に説明すると、スナップ写真に映る人物に加工を施すことで、新しい洋服のデザインをつくるというものです。加工には必ず「FASHIONの中から1文字のアルファベットを使う」というルールを設けて、1冊を通して見た時に「FASHIONを着る」という大きなテーマを感じさせるものに仕上げました。
吉比
すごい! 考えるだけではなくて、作業まで全部ひとりでやるんでしょ?
青木
そうですね。企画から始まって、イラストレーターので作業や印刷、製本まですべての工程を自分でやります。雑誌って完成された服やアイテムを掲載することが多いと思いますが、今回はデザインされる前と後を見せました。
吉比
既存のモノに別の要素を取り入れて新たなモノをうみ出すというのは非常に面白い観点だと思うよ。
青木
ありがとうございます。
Theme02
アパレル以外のすべてが、
デザインのヒントに。
吉比
ちなみに青木さんは、革は好き? 今日の服装を見ると、おそらく普段から革製品を使っているのかなと思ったので。
青木
好きです。グッズのデザインをする時は、革でつくることを想定する場合が多いですし、普段から自分でもコートや靴などは革素材のものを選ぶことが多いですね。
吉比
それはありがたいです。まだ20歳の青木さんは、革に対してどういった印象をもっていますか?
青木
まずシンプルに見た目がかっこいいですよね。生地には出せない独特な艶感と色味があって、黒だけではなく他の色でも、大人っぽさを出せる素材だと思います。
吉比
まさにそれが魅力だよね。これまでに革を使ってアイテムをつくった経験もあるの?
青木
実は革をメインに扱ったことはあまりありません。革屋さんに行ったこともなくて……。やっぱり革を使うっていうのは、難しいでしょうか?
吉比
正直に言うと、簡単ではないですね。そもそも生きていた動物からいただく素材なので、1枚1枚に違いがあります。しかも動物の種類や部位などによっても性質が異なるので、そのあたりを理解していないと、なかなか思い通りにはならないんだよね。
青木
なるほど。革というものを大きなひとつのカテゴライズでしか捉えていませんでした。
吉比
誰でも最初の頃はそうだと思うよ。だからまずは実際に革屋さんや素材の展示会にいって、いろいろなものを触ってみてほしいな。
青木
そうですね。吉比さんが思う、革を使うことのメリットとデメリットってどういったものが挙げられますか?
吉比
厳密に言うと1枚として同じものが存在しないというのは、捉え方によってはデメリットかもしれません。特に量産する前提の商品は均一性が求められるからね。そういった場合は傷の部分を省いて裁断しなくてはいけないし、使う部位もある程度、同じところを選ばないといけません。ただ「同じ革がない」ということは、常に唯一無二の素材を使えるわけだから、そこをデザインで活かすことができれば、作品の個性にもつながるはずです。
青木
1枚1枚の革の表情を見極めて、それを作品に落とし込むのが大切なんですね。
吉比
そうだね。それに例えば靴とバッグだと使える種類も違ってくるから、それぞれに勉強は必要かもしれないけど、たとえば「革の持つ個性を活かす」というコンセプトで、製作するアイテムを考えるのも面白いかもしれない。青木さんは、メインにしたいジャンルは決まっているの?
青木
服や靴、バッグ、ベルトなどまでトータルでコーディネートできるラインナップをつくりたいと思っています。身に纏うモノのデザインって、いろんなコトからインスピレーションを受けてうみ出せるので。
吉比
なるほど。たとえばどんなコトから着想を得ているの?
青木
基本的にはアパレル以外のアートやインテリアなどからヒント得ることが多いです。しかも造形や配色といった具体的な要素というよりも、それを見た時に感じた印象をファッションに変換するようにしています。あとはじっくり時間をかけて、考えて、悩んだ末に自分の内側から出てくることもありますよ。
吉比
ファッション以外の分野に興味を持つことで新しい発想がうまれるんだね。今日はいくつかデザイン画を見せてもらったけれど、どれも独創的でとても興味深いものばかりです。デザインをする上でのこだわりやコンセプトはあるのかな?
青木
今は授業の一環で取り組んでいるものばかりなので、与えられたテーマ次第で変わります。ちなみに僕は一見するとデザインには関係ない部分まで考え尽くさないと満足ないタイプ。先生から出された課題だとしても、自分なりのコンセプトを設定して、作品に込めるメッセージまで決めています。最終的な見た目には影響しないかもしれませんが、そういった要素が絶対に大事だと思っているので。
吉比
なるほど。じゃあ青木さんがめざす理想のデザイナー像ってあるかな?
青木
ありふれた言い方になってしまいますが「他の人がやっていないことをやりたい」という感覚は常にあります。ただそれは「奇抜なモノをうみ出したい」という意味ではなくて、造形と機能のどちらもデザインされている新しいモノをつくりたいという感覚ですね。
吉比
本当に素晴らしいスタンスでデザインされていますね。今の青木さんが掲げる目標や思いを、是非これからも持ち続けてください。我々のような材料を供給する仕事をしていると、コストをばかりを意識したつくり手やメーカーとよく出会います。もちろんコスト管理が必要なことではあるのは理解しているつもりです。ただ本来は青木さんのように「メッセージを込めている」とか「つくりたいコンセプトがある」という思いが先にあって、それを実現するための素材を選ぶのが理想のはず。将来的にコストの問題は必ず出てくると思うけれど、その時に何を大切にするのかを見失わずにいてほしいな。
Theme03
選ばれるために、
本当にいいモノを追い求める。
吉比
いろいろなジャンルからファッションデザインのインスピレーションを得ているという話がありましたが、たとえば素材からデザインのアイデアをうむことも可能だと思いますか?
青木
そういったケースもあります。素材にマッチするアイテムを考えることもありますし、先にデザイン画があってもいい生地や革に出会えれば、その材料に合わせて調整し直すこともありましたね。素材探しとデザイン、そして製作をループさせる感じです。
吉比
そういう経験があるなら、いっそう革をみてほしいな。というのも青木さんのようなタイプのデザイナーなら何かヒントが得られると思うから。いわゆる革らしい革以外にも、プリントや型押し、箔押し、エナメルといった膨大なパターンが存在します。
青木
それは興味深いです。革の性質を活かしながら、加工でさらに表現の幅が広がりますね。周りに革をメインで使っている学生もいないので、僕が挑戦しようかな。
吉比
今から楽しみにしています! ちなみに今気になっている素材ってあるかな?
青木
聞きたいと思っていたのがまさにそのことです。最近、天然皮革ではないレザー風の素材も多くありますよね。中でも動物由来の原料を使っていない『ビーガンレザー』は、すでに製品にも使われていますが、吉比さんの会社でも取り扱っていますか?
吉比
私の会社は天然皮革がメインなので、数は少ないですが取り扱いはあります。例えば最近だと生地にパイナップルの繊維を練り込んで革っぽく仕上げたものを置いているかな。
青木
なるほど。やっぱりそういった新素材の開発が進むことで、革の代用とされる時代が来るのでしょうか。
吉比
個人的な見解として、革という素材がなくなることはないと考えています。なぜなら革は動物のお肉を食べることでうまれる皮をリユースしてつくられる副産物。革以外の材料がどれだけ進化したとしても、お肉を食べる人がいなくなるわけではないからね。でもどういった思想や主義を持つかは自由だし今後もより多様化していきます。だから植物由来の材料はひとつの選択肢として必要にはなるでしょうね。
青木
そうですね……。単刀直入にお聞きしますが、吉比さんからみて、そういった新素材はどういった印象ですか?
吉比
時代の流れを考えるとある種の必然性を感じます。近年、世界的に『アニマルフリー』という考え方がうまれて、ファッションにもその観点が取り入れられるようになりましたからね。一方で皮からつくられていない以上、やはり革にはなりえないとも感じています。それにお肉は食べるけれど、皮は再利用しないというのは、サステナブルやエコロジーという考え方からも逆行するわけです。革をつくるために動物が屠殺されることはないから、新素材を使うことがイコール無駄な殺生を減らすというわけでもないんだよね。
青木
僕も同感です。革製品って適切な手入れをすれば、長い期間使いつづけられます。1つのアイテムをずっと大切に使えるって、つまりエコだし、持続可能性が高いと言えますよね。それを実現できる数少ない素材である革を使いづらい風潮になるのは残念だなって……。
吉比
そうだね。我々のような天然皮革を扱う革屋や、革を使ってモノづくりをされる方が試されている時代が来ました。旧来の革の位置づけって「高級品」だったから、そのイメージが今でも強く残っていると思います。実際に革を使うことで製品の販売価格が高くなることは多いし、奮発して買うからこそユーザーにとって特別なアイテムになるという側面はあるかもしれません。でも今の若い方たちは、自分たちが購入するモノを選ぶ時に「高級」や「ブランド」が基準にはならないでしょ?
青木
そうかもしれませんね。もっとシンプルに「ほしいと思えるかどうか」で選ぶと思います。
吉比
うん。だからこそ選ばれるためには提供する側が「革を使う意味」をしっかりと示せないといけない。青木さんはすでに素材の背景にまで意識が向いているから、革を使う時にどんな思いを込めるのか非常に楽しみです。
青木
たしかに「個性がある」「質感が好き」ということも大事にしながら、さらに「どうやってその素材がうまれたのか」「それを使うことにどんな意義があるか」までを考えてデザインしたいと思います。
吉比
ありがとう! 今はただいいモノをつくるだけでは選ばれない時代だからね。デザイナーとして「何をつくりたいのか」「なぜつくりたいのか」を自問自答しながら、もし革のことで悩んだ時には、いつでも頼ってください。まだ2年生であるけど、本当に将来を楽しみにしています!!
青木 武蔵さん
東京モード学園
ファッションデザイン科