2023.06.12

【極めのいち素材】第104回 第3位 株式会社 久保柳商店(前編)

イマジネーションと技術が織りなす、素材(皮革と布帛)・副資材(機能性素材やパーツ)など各社渾身の一点を提案する『極めのいち素材』。第104回東京レザーフェアにて、人気投票でTOP3を獲得した企業へのインタビューを掲載します。まずは前編となります。

【第3位】
株式会社 久保柳商店
品 名:ボタニカルレザー 屋久杉
<コメント>
環境にも人体にもやさしい鞣し剤を使用した白鞣し革に、樹齢1000年以上の屋久杉の端材や埋木から特殊な技法で抽出された染液で染め上げたキップレザーです。
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昭和十七年に浅草で創業以来、常に新しい革をつくり続ける株式会社久保柳商店。革の持つ可能性の幅を広げ、日本の伝統技法を用いた自社ブランドtesaho(てさほう)コレクションの一つ『屋久杉染』について、同社代表取締役の一條真見氏と担当者の長 島洋一氏にお話を伺いました。

―この素材の特徴をお聞かせください

弊社で取り扱っている『ボタニカルレザー』という草木染めの商品があるのですが、その中のシリー の『屋久杉』になります。材料は朽ち果てた倒木や一部、家具などで使われた屋久杉の端材・木屑などを回収して、それらの材料を煮出した染料を使用します。化学染料とは一味違う自然ならではの重厚感がある色に仕上がっていると思っています。完全な天然染料による染色技法になるのでとてもデリケートで、工場の温度・湿度などの環境やその日の天気、染め時間、革本体の個体差などによって染め具合に微妙な違いが出てきます。これにより、同じもののない唯一無二の革が出来上がります。

担当者の長島洋一氏と代表取締役の一條真見氏

―素材開発のきっかけとなった背景をお聞かせください

昔から「世の中にない革を作ろう」という想いで営業の企画部から色んな提案を持ってくるような動きがあるのですが、ある展示会に行った時に草木染めの生地を扱われている会社さんがありました。話を聞いてるうちに革にも応用ができるのではないかと思い、そこからこの企画が始まりました。

―製作にあたって苦労したことなどありますか?

化学薬品を使わない天然成分のみの作業となるため、人の手を加えられる範囲がどうしても狭くなってしまいます。薬品だと調合などで色々と手を加えられますが、『ボタニカルレザー』の場合は時間や環境によるところが大きいです。特にその中でも原皮の個体差によるところが大きく、どんな革でも染められるわけではありません。桜などの淡い色は白なめしがいいのではと思い、一度試したことがあったのですが、白なめしだと油が多く染まらなかった経験もあります。他にも様々な原皮を使用して試行錯誤の日々だ ったので、苦労した点といえば原皮選びや個体差による微妙な調整などになりますね。また、製作面の苦労とは違いますが、市場という点での課題もまだまだあります。天然物の商品になりますと、どうしてもクオリティの統一性や市場に乗らないB品処理のコスト面などの問題。特に『屋久杉染』に関しては、染料の素である屋久杉の安定供給も課題の一つです。

―想像通りのものが出来上がり ましたか?

そうですね。屋久杉に限らずなんですが、桜も茜も本当に天然物らしい優しい色合いになったと感じています。日本の色は海外とは違い、自然の物や情景をそのままカラー名にするなど繊細な感情が含まれています。その日本らしい文化をうまく革に落とし込めたのではないかと思っています

(後編につづく)

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株式会社久保柳商店(MEMBERページ):https://tlf.jp/member/kuboryu/
株式会社久保柳商店 公式サイト:https://kuboryu.com/