2025.06.16

【極めのいち素材】第108回 第2位 株式会社 川善商店(前編)

イマジネーションと技術が織りなす、素材(皮革と布帛)・副資材(機能性素材やパーツ)など各社渾身の一点を提案する『極めのいち素材』。第108回東京レザーフェアにて、人気投票でTOP3を獲得した企業へのインタビューを掲載します。まずは前編となります。

【第2位】
株式会社 川善商店
品 名:SHIn(Floater Type)
<コメント>
オーバーカーフを使用し、日本の感性、そして、水質、独自の鞣し、加脂技術で作られた海外には存在しないハイクオリティな逸品。
吸いつくようなタッチとキメの細かさが特徴のシボ革。
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1930年に名古屋で革問屋として創業した株式会社川善商店は、妥協を許さない革づくりを実現させるため、2018年に自社工場を姫路に設立するなど自社にしか作れない世界に通用する革づくりをコンセプトに、高品質な革を提供されています。
日本皮革産業連合会主導のプロジェクト『Thinking Leather Action』で、座長を務められている同社、代表取締役の川北芳弘氏に、極めのいち素材『SHIn(Floater Type)』の革についてお話を伺うことができました。

―この素材の特徴をお聞かせください

「二加脂(にかし)」と言ってオイルをたくさん含ませた革になるのですが、手に吸い付くようなタッチ感とキメが細かくソフトな質感が特徴的な革になります。使用している皮はオーバーカーフと言って、日本ではキップと呼ばれているのですが、とにかく希少性を高くするために原皮にはこだわりました。その原皮を使い、日本が最も得意としているソフトレザーの製法で作られたのがこの『SHIn(シン)』になります。海外でもここまでのタッチ感やソフト感のある革は、なかなかお目にかかることはないので、ジャパンレザーと言える極めのいち素材ができたと思っています。

―素材開発のきっかけとなった背景をお聞かせください

昨今の皮革業界は、世界的に見ても低迷しているのが現状です。そのような中、日本でのニーズは2極化してきていると思っており、価格が安い、か、もしくは高くても特徴や価値のある革が求められていると考えています。『S H I n(シン)』の開発にあたり、希少性の高いオーバーカーフを使い、日本の特有の水質を生かし、ソフト革製法技術を用いたジャパンレザーとなる逸品を世に広めようという思いで、この革を出展させていただきました。この技術が意外と製品メーカーさんや卸の方々にも知られていないこともあり、広めたいという思いもありました。

―製作にあたって苦労したことなどありますか?

正直なところ開発の苦労はそこまでないのですが、その前の知識体系を組み立てる段階が一番苦労したと言えます。私自身、最初から皮革業界にいたわけではなく、元は広告代理店に勤めておりました。この業界に入ってきて最初に、人によって革の知識や言語にバラツキがあることに気が付きました。例えば、会社に入ったばかりのころ、産地の違う革が2枚あり「この革とこの革はどう違うのか?」と先代(現会長)に聞いても「なんとなく違う」といった答えが返ってきたりしました。でも、それが間違いというわけではなく、確かに長年の経験者だから言える「なんとなく・・・」であって、私自身現在は「なんとなく」の意味が理解できます。ただ、第三者に伝える場合、いかにその曖昧さをロジカルに伝えれば良いか?と考えた時、知識の統一化や言語化が必要になるので、その辺りの知識の構築にすごく時間がかかりました。様々な知見を整理し、ロジカルに話ができるようになるレベルまで、かなりの時間を要したと思います。経験を積んだ現在では「原皮のチョイス〜鞣し〜塗装まで、ああすれば、このような革ができる」と予想できるようになっていますため、出来上がった革もイメージしていた通りのものが出来たと思っています。

(後編につづく)

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各団体・企業情報はこちらから。

株式会社 川善商店(MEMBERページ):https://tlf.jp/member/kawazen/
株式会社 川善商店 公式サイト:https://kawazen.co.jp//