イマジネーションと技術が織りなす、素材(皮革と布帛)・副資材(機能性素材やパーツ)など各社渾身の一点を提案する『極めのいち素材』。第102回東京レザーフェアにて、人気投票でTOP3を獲得した企業へのインタビューを掲載します。まずは前編となります。
【第3位】
企業名:株式会社 久保柳商店
品 名:ヴィンテージ
<コメント>
何千時間もの間、タイコで回され、叩かれたヌメショルダー。驚くほど柔らかく肌も擦れ、ヌバックのような風合いになっています。補助のために使う脇役の革ですが、主役以上に存在感のある唯一無二の革です。
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昭和十七年に浅草で創業し、常に新しい革をつくり続ける株式会社久保柳商店の髙津康次氏と極めのいち素材『ヴィンテージ』の提供元であり、大正十四年創業以来、革本来の味わいを活かした「表情のある革」を生み出し続けた長坂染革株式会社の代表取締役である長坂守康氏に『ヴィンテージ』の誕生秘話など、お話を伺いました。
―素材開発のきっかけとなった背景をお聞かせください。
長坂氏:革を製造する過程でどこのタンナーさんでも「空打ち」という工程があります。「タイコ」と呼ばれる大きい樽の中に革だけを入れて、ひたすら回し続ける作業になるのですが、その時、発注されるロット数によっては、空打ちをする規定の枚数に達しないことがあります 。そのような場合、弊社では「あんこ」と言って、売り物になる革とは別にタイコの中を満たすためだけの革を入れて空打ちをします。その「あんこ」は、役割を終えるまで何度もタイコで回され続けるのですが、その中の一つに久保柳さんが目を付けられたことが、世に出たきっかけになります。なので、素材開発というわけでなく、道具の一つとして使っていた革が『ヴィンテージ』の誕生秘話になります。
―どこのタンナーさんでも「あんこ」を使われてますか?
長坂氏:申し訳ございませんが他社様のことはわかりません。私が知っているのは、ボールのようなものをタイコに入れて空打ちするのを見たことがあります。要は中で革が解れてくれればいいので、何も革を入れる必要はありませんし、そもそも規定の枚数に達していれば「あんこ」自体不要なものになります。一番良いのはタイコをいっぱいにして空打ちするのが理想ですが、昨今は仕方なく小ロットで回す場合が多く、革以外のものを入れかさ増しするよりは、同じ革を入れるほうが品質的にも良いと思い、このようなやり方をしています。
―この革を見つけられた時、どのような心境でしたか?
髙津氏:長年、極めのいち素材の担当をやらせていただいていて、何か面白い革がないかと常にアンテナを張っているのですが 、そんな折、長坂染革さんのところでこの革を見つけました。いくつかある「あんこ」の中からこの『ヴィンテージ』を選んだのですが、なんと言っても、まず見た目のインパクトが強かったですね。そして、この革ができる過程などをお聞きしたときにまさしく唯一無二の一点もの、これこそが「極めのいち素材」だと感じ、出展させていただきました。
―今回の革の特徴をお聞かせください。
髙津氏:硬く厚いヌメ革が元になっていますが、何千時間もタイコで回されたことにより、硬かった繊維はほぐされ柔らかく空気を含んだ分厚い革に変化した革になります。ちょうど使い古された革の風合いが自然に出来上がった革になります。用途としては、バッグなど様々あるとは思いますが、そもそも用途などを考えて意図して作ったものではないので、何かを作るためにこの革を選ぶのではなく、この革を見て職人さんが何かを作りたいと思ってくれる革ではないかと思っています。なにしろインパクトが強いので、職人さんも何かしらのインスピレーションを感じてもらえれば嬉しいです。
(後編へとつづく)
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各団体・企業情報はこちらから。
株式会社久保柳商店(MEMBERページ):https://tlf.jp/member/kuboryu/
株式会社久保柳商店公式サイト:http://kuboryu.com/
長坂染革株式会社公式サイト:https://nagasaka-senkaku.jp/