2022.06.29

【学生✕社長 VOL.03】 “いい革”とは、理想の表現を追求しつづけた先にあるもの。

PROFILE

長崎 眞子さん

文化服装学院
ファッションデザイン工芸課程
シューズデザイン科

近多 亮介さん

文化服装学院
ファッションデザイン工芸課程
シューズデザイン科

チン メイジュウさん

文化服装学院
ファッションデザイン工芸課程
シューズデザイン科

文化服装学院

業界へ卒業生30万人を輩出! 国内外の服飾系大学・専門学校の中で高い評価を受けている伝統と実績の服飾・ファッション専門学校。ファッションデザイナー、パタンナー、スタイリスト、バイヤー、プレスなどファッション業界のあらゆる職種を網羅する各学科を設置。

INTERVIEWER

吉比 浩さん

吉比産業株式会社
代表取締役社長

創業1882年、130年以上の歴史を持つ革の卸売専門商社・吉比産業代表取締役。「日本における皮革産業の黎明期から続く唯一無二の歴史と功績」「理想の商品に向けた、最高の組み合わせを選定するコーディネート力」「販売員を中心に、革に対する正しい知識や楽しみ方を伝える啓蒙活動」といった強みを生かして事業を展開している。

Theme01

若き“靴クリエイター”が今いる場所。


吉比

今日は靴づくりを専門に学んでいる3人が集まってくれました。まずみなさんに聞いてみたいのが「なんで靴をつくろうと思ったのか」という原点の部分です。


近田

僕は高校生の頃からスニーカーが大好きで、何足も買い集めていました。卒業した後も靴への思いは強くなる一方で、結果的には通っていた大学を中退して、文化服装学院に入学を決意します。


長崎

私たちが入学した当時のファッション工芸専門課程は、1年生の時に靴やバッグ、帽子、ジュエリーなど、さまざまなファッショングッズ制作の基礎を学ぶカリキュラムが組まれていました。そこで学んだ中から、それぞれが専門に学ぶジャンルを選択して、さらに2年間をかけて技術を身に着けます。私は靴づくりに一番惹かれたので、この学科を選びました。


チン

私は台湾出身で、現地の服飾系の大学で、靴だけではなく、バッグや小物を含めたファッショングッズ全般を勉強していました。とあるコンテストで入賞したこともあり、そこから「もっと勉強するために、日本に行きたい」と考えるようになりましたね。来日して1年間は日本語学校で語学を習得して、その後この学校に通っています。

普段は接することの少ない学生たちとの対談に、吉比社長も緊張気味!?


吉比

なるほど。チンさんがバッグや帽子ではなく、靴を専攻したのはなぜ?


チン

もっともつくるのが難しいと感じたのが靴でした。だからこそ、もっと勉強したいと思ったのが理由です。

台湾にいた頃から、ファッションを学んでいると話すチンさん。


吉比

さまざまな種類の靴がある中で、今は革靴だけでなく、スニーカーも主流になりつつあるよね。学校ではスニーカーの制作も学べるの?


近田

3年生になってから勉強しました。でも基本的には革靴をつくっている学生が多いですね。今日、僕たちが持ってきた作品も革靴ばかりです。


吉比

僕らが若かった頃は、大人が履くとなると革靴しか選択肢がなかったんだよ(笑)。だからみなさんのような若いクリエイターたちが、革靴づくりに没頭して、新たなスタイルを生み出してくれているのは素直に嬉しいこと。しかもここに持ってきてくれた作品も、個性的なデザインのものばかりで、革屋としてワクワクします。ちなみに材料となる革ってどうやって選んでいるの?


長崎

大きく2つの方法があります。まずは各科の学生が自由に使える革が保管されている『革室』で選ぶというもの。ただそれだけでは数に限りがあったり、自分が思い描く革がなかったりする問題があります。そういった時は、各々が例えば浅草や浅草橋といった場所にある小売店に足を運んで探しています。

長崎さんはプライベートの時間をつかって革を探しにいく学生も多いと語ってくれました。


近田

革室にあるモノは早い者勝ちというか、みんなが「いいな」と思う革から使われていくので、自分で買うことも多くなりますね。


吉比

先ほど革室を見せていただいたのですが、豊富なバリエーションが揃っている印象を受けました。それでもわざわざ革屋さんに行って自分が求めるものを探すということは、かなり明確に完成のイメージを持っているんだと思います。ちなみに革からインスピレーションを受けて、靴のデザインが生まれることもある?


チン

はい、あります。私はモノトーンの作品をつくることが多くて、配色による表現の幅が狭い分、革の質感を活かすことがデザインする上で大切になるので。


長崎

私はデザインから革を選ぶことも、革からデザインを決めることも、どっちもあります。例えば革室でいい革と出会えれば、それを使いたくなって、そこから最適なデザインを考えますね。


近田

僕の場合は、つくった靴がどんなシーンで履かれるのかを考えて、そこから革を選んだり、デザインしたりすることが多いかもしれません。

近田くんは誰がどんなシーンで履く靴なのかを想像してデザインすることもあると説明。


吉比

まずはシーンを思い浮かべるんだ。その発想は面白いね。


近田

はい。日常生活ではスニーカーがメインになった今でも、例えば結婚式や成人式などの晴れの日に履くのは革靴が多いじゃないですか? そういった思い出に残るような記念日には、それにふさわしい靴を履いてほしいという願いも込めてつくっています。


吉比

たしかにそうだね。ただフォーマルな場面で履かれる革靴のデザインの幅も、時代の変化とともにかなり広くなっていると思うので、若い感性でつくり上げた革靴と礼服を合わせるのも面白いかもしれない。今は着るものや履くもので個性を出すのが当たり前の時代だからね。


近田

でも「どんな人がどんなシーンで履くのか」を想像するかどうかは、つくり手のタイプによるのかもしれません。


長崎

たしかに。私は履く人のことを考えるより、自分がつくりたいと思う靴をつくることも多いからね(笑)

ユーザーファーストか、作家性の追求か。そこに答えはありません。


チン

そうそう。私も学校の作品としてつくる場合は、履きやすさは考慮せずにつくることがあるよ。今日ここに持ってきたパンプスだって、普通に履いたら絶対に脱げちゃう(笑)


吉比

ユーザーのことを考えるのも、自分が表現したいことを突き詰めるのも、どちらもモノづくりにおいて非常に大切な感覚だと思うから、その両方を念頭に置きながら3人とも自分のやり方を追求してほしいな。ビジネスの現場に立ったら、どうしてもデザインよりもコストが優先されることが多いので、その現実を打破するためにも、まずは自分自身がやりたいと思うデザインを、とことんやってみてください。

Theme02

「いい革」とは? 値段、産地、それとも……??


吉比

今度は逆に、みなさんが抱く革に関する疑問や悩みはありますか?


近田

はい、僕はあります。ひと口に「革」と言っても、動物の種類や部位、産地、どのような方法でつくられたかなどによって、本当に膨大なタイプがあって、値段の幅も広いですよね。そんな中で「いい革」とはどんな基準で決められるのか、ずっと疑問に思っています。

革を扱う者同士、内容はより本質的な部分に迫ります。


吉比

最初からかなりいい質問だね。今近田さんが言ったように、革にはたくさんの種類があるし、値段もバラバラ。それにもともと生きていた動物の命をいただいて得られる副産物だから、厳密に言うと1つとして同じものは存在しません。その上でみんなに革を選ぶときに意識してほしいのは、高価な革が必ずしも「いい革」にはならないということです。


近田

値段が高くても「いい革」と呼べない……。では吉比さんが思う「いい革」の定義はなんですか?


吉比

それは「最終製品の価値を高められる革」だね。つまり靴やバッグ、帽子になって初めて、そこに使われている革の良し悪しが評価されると思っています。だから安いものを使っていたとしても、その革の特性を活かしたつくりになっていたり、魅力的なデザインがされていたりすれば、それは「いい革」。言い方を変えれば、この世に「悪い革」なんてひとつもないとも言えるよね。

「悪い革はひとつもない」。改めて革製品そのものと向き合うきっかけとなりそうです。


近田

なるほど。完成してはじめて革の評価が決まるというのは、すごく納得感があります。


吉比

おそらくみんなは、これからさまざまな革を扱うことになると思うけれど、その1枚1枚に違った手触りや表情があるはずです。だから価格やブランドなどから受ける先入観はいったん捨てて、自分が表現したいデザインとマッチするかどうかを基準に革を選んでみてください。


近田

分かりました。ありがとうございます!


チン

私も素朴な疑問があります。革屋さんに行くと、白の革が少ないように思うのですが、何か理由があるのでしょうか? モノトーンによる表現が好きな私にとっては、選択肢が少ないのがちょっと残念で……。


吉比

たしかにその疑問を抱く人は多いかもしれないね。理由は大きくふたつあります。まずひとつはニーズの問題。革のカラーバリエーションが豊かになり、選択肢が増えたことで、もともとは多かった白や黒系統の革のニーズが相対的に少なくなったということだね。そしてもうひとつは染色の問題。名前の通り染料をつかって「染める」ことで、黒や赤、青、緑などさまざまな色の表現が可能になったんだけど、白色の染料というのは存在しません。

現状に不満や疑問がうまれるのは、自分がつくりたいモノが明確にあるからこそ。


チン

でも白い革は存在しますよね? それはどうやってつくっているんですか??


吉比

『鞣し』という工程の時から「白っぽく」つくっていって、最終的には白の顔料を革の表面に塗布することでできあがるものが多いかな。つまりイメージとしては革にお化粧をしている感じ。顔料で色を表現すると、狙った色は出しやすいけど、表面に塗料が乗ることになるので、革本来の質感は出にくくなります。また靴の場合は、つくる工程で革を強く引っ張る必要があるよね? 顔料を塗ると、その時にひび割れのリスクがあるという点も覚えておいてほしいです。


チン

そういうことなんですね。でももっといろんな白い革がみたいな……。


吉比

それは大丈夫。あくまで流通している数が少ないというだけで、要望があれば靴をつくることを目的とした白い革もできるから。それに白い革を使った靴が少ないということは、それを得意とするチンさんにとってはチャンスでもあるよね。


チン

なるほど! ありがとうございます!!


吉比

革の性質を活かすという点では、長崎さんの作品はかなり興味深いですね。どうやってつくったの?


長崎

これは革が持つ伸縮性と形状を保とうとする性質を利用して凹凸をつくりました。しかも靴の表側に細工を加えるのではなく、内側にスタッズを入れることで、革そのものがデコボコしているようにみせています。もともとこれだけボコッと浮き上がっている革はありません。だから自分でつくりました。

ほしい素材がないなら、自分で工夫する。そうしてうまれる個性がたくさんあります。


吉比

うん、たしかにこれは絶対にないね。自ら革を加工しているというのも珍しいと思います。他の2人の作品でもそうだけど、靴という一定の制約の中で、それぞれの個性を出している点は見ているだけでも面白いですよね。


長崎

そう言っていただけると嬉しいです。革って「かっこいい」とか「クール」という印象を抱く人が多いと思うので、そのイメージを活かしつつ、日常で広く使えるものをデザインしたいですね。


吉比

我々のような革屋も、そういった思いを持ったクリエイターの方々とお仕事をするのが非常に楽しいんですよ。革靴ってどうしても同じようなデザインになってしまいがち。そんな中で固定概念にしばられないデザイン画を見せられると「やっと来た!」って思うんですよ(笑)。長崎さん、チンさん、近田さんの靴はどれも、一般の市場ではまず見かけないようなものだから、少なくとも学生のうちは、オリジナリティを前面に出した靴をつくってほしいと思います。

Theme03

革が好き。革を使いたい。でも……革は高い!


近田

皮革業界の方々にお願いがあって……。繰り返しになるのですが、僕らは作品をつくるときに、自分たちで革を購入することも少なくありません。非常に言いづらいのですが、そういう状況を踏まえて、もう少し手に入りやすい価格にはならないでしょうか! こんな機会でしかお願いできないので!!


長崎

近田さん、よく言ってくれた!(笑)。私も学生割引のようなものがあれば本当に嬉しいです。


吉比

私たちもしっかりと受け止めないといけない非常に素直な意見ですね。勇気を持って投げかけてくれてありがとう。ちなみにどういった時に「高い」と感じますか?


近田

特に卸売をメインにしている企業で購入する場合、最小でも半裁1枚からがほとんどです。僕たちのように1足だけをつくるために必要な大きさ以上のサイズで購入せざるを得ない場合は、どうしても「高い」という印象を受けてしまいます。

学生である彼ら・彼女たちに、いま必要なのはモノづくりを追求すること。


チン

しかもパーツによって配色を変えるようなデザインの場合は、なおさら大きな革は必要ないんですよね……。


吉比

たしかに1足のために、半裁を何色も揃えるのは現実的ではないから、小さいカットで必要数だけ揃えたいというのは、非常によく分かります。実は昔と比べると皮革業界も少しずつ変わってきていて、卸売を専門としていた会社が小売を始めたり、弊社でもA3サイズのカットを販売したりと、革自体は手に入りやすくなっているはず。とは言え、靴に適した革に限って考えると、小さいサイズはまだあまりないのが現状かな……。


近田

はい。靴に使える革がカットされて売られているのは、ほとんど見たことがないですね。

ビジネスと若手への支援。その2つを両立するために吉比社長は労を惜しみません。


吉比

これはちょっとした裏技になるけど、我々のような革屋がメーカーやブランドに革を納品する時に、ロットの関係で1枚だけ余ってしまうことがあるので、そういうのを狙うのは手かもしれない。会社としてはそれも売ってしまいたいけど、1枚だけの発注ってほとんどないから、お互いにとってメリットがあるよね。とはいえ初対面で「余った革、ないですか?」なんて聞くのはなかなか難しいと思うから、いろいろな革屋さんと知り合うところから始めるといいと思う。あとTLFは誰でも入場可能だから、そういった展示会に足を運んで話を聞いてみるとかね。


長崎

すごくいいことを聞けました! ありがとうございます!!


吉比

私の方からも、TLFに加盟されている企業の方々に、割引を含めた学生さんたちへの対応を検討するよう伝えておきますね。あと我々もタンナーと協力して、日々新しい革の開発に挑戦しているから、企業の方から学生の方たちに対して「この革を使ってみませんか?」というオファーをしていくのもいいかもしれないですね。


近田

え!! それは嬉しい!

今日の鼎談をきっかけに、学生と企業とのコラボレーションが加速するかもしれません。


長崎

コラボレーションさせていただく機会が増えるのは、非常にありがたいです。自分の発想だけでつくっている時とは、また違った視点がうまれますから。


吉比

学生の方々に革を提供して、たとえば作品づくりの工程をSNSで発信してもらったり、できあがった作品をコンテストに出品してもらったりすることで、企業にもメリットがあるはずです。SNSを含めた“情報発信”に関しては、みんなの方が先輩だしね(笑)


チン

経済的な負担が減るのと同時に、自分自身のプロモーションにもつながるので、ぜひやっていただきたいです!


吉比

せっかく今日のような機会があったので、実現していきたいですね。おそらくどんな革屋さんでも、若手のクリエイターが奇抜なデザインを持ってきて、「でもお金がなくて……」と言われたら、助けてあげたいと思うはずです。もちろんその代わりに、素晴らしい作品をつくることで恩返しをしないといけないけどね。


近田

そう言っていただけると、より頑張れます!

次のファッション業界を担う若手たち。純粋な笑顔の奥には、きっと情熱に溢れているはず!


長崎

最後に私からもひとつ聞かせてください。吉比さんが考える「いい革に出会うためにできること」ってありますか? 先ほど「いい革の定義」を聞いて、いっそう興味がわきました。


吉比

最後にまたいい質問だね(笑)。僕なりの答えを出すなら、今のみなさんのように「つくりたいモノ」「表現したいコト」を持ちつづけることじゃないかな。将来、お仕事をする上で、メーカーやブランドに勤めるのか、独立して自分のブランドを立ち上げるのか、いろいろな岐路に立たされると思うけど、クリエイターとして何を大切にするのかを見失わずにいれば、おのずと「いい革」に出会えるよ。なぜならそれはつまり「いいモノ」がつくれたということだから。私も長年にわたって、誇りを持って革の仕事をしてきたので、自分の会社で扱っている革はどれも素晴らしいと自負しています。同じようにみんなも、デザイナーとしてのプライドや自信を持って、これからもモノづくりに励んでください。


長崎

ありがとうございました!


近田

ありがとうございました!


チン

ありがとうございました!