Theme01
革への愛着や親しみを感じながら
それぞれにものづくりの世界へ。
橋本
本日はよろしくお願いします。ではまず自己紹介から。私は川村通商株式会社の橋本です。革をはじめ、靴をつくるためのさまざまなパーツや薬品などを取り扱う会社で、営業と仕入れを担当しています。
山岸
日本工学院八王子専門学校のデザイン科プロダクトデザイン専攻3年の山岸です。主に『3D-CAD』というソフトを使い、家具や雑貨といった立体物のデザインを学んでいます。
橋本
山岸くんはなぜこの学校を選んだんですか?
山岸
高校の時に『ボールチェア』という世界的に知られるイスに出会って、一目惚れしたのがきっかけです。ただそのイスがすごくほしかったのに、高すぎて手が出ません。そこで「買えないなら自分でつくってみよう!」と思い、家具のデザインが学べる専門学校を探しました。
橋本
「ほしい」という気持ちが創作意欲に変わったんだね。
山岸
そうなんです。そしてこの学校に入ってプロダクトデザインを学ぶ中で、革の魅力に気づきました。去年は東京レザーフェアの『革コン』にも作品を出しています。
橋本
もしかして……車輪のバッグじゃない?
山岸
あ、そうです!! それ、僕がつくった作品です!
橋本
やっぱりそうだよね。はじめに名前を聞いた時に「あれ?」と思って。実は山岸くんのその作品の革を提供したのは弊社なんですよ。
山岸
えっ!! そうだったんですか。その節はありがとうございました(笑)
橋本
こちらこそ。こんなご縁があるとはビックリですね。
橋本
では長沼さんも自己紹介をお願いします。
長沼
はい。山岸くんと同じプロダクトデザイン専攻3年の長沼です。
橋本
長沼さんがこの学校を選んだのは、どんな理由ですか?
長沼
私は小さな頃から車が大好きで、車や家具といった工業製品のデザインが学べるこの学校への進学を決めました。
橋本
女性で車が好きなのは少し珍しいね。
長沼
よく言われますね(笑)。親が車好きで、家にプラモデルがたくさんあったのが影響していると思います。
橋本
クラスには長沼さん以外に女の子はいるの?
長沼
いますが少ないですね。でも授業が楽しいので、あまり気になりません。
橋本
楽しいと感じるのは、どんなところ?
長沼
デザイン通りのカタチにならないことがあって、その難しさが楽しさに変わっています。
橋本
では長沼さんがものづくりをする上で大切にしていることはありますか?
長沼
『商業デザイン』というのは、いわゆる『アート』とは違って、多くの人に「使いたい」と思ってもらう必要があるもの。だから自分が表現したいことも大事にしつつ、ユーザーの視点でデザインをすることを心がけています。
橋本
それはすごく大切な考え方だね。例えば我々のような卸売業者も、革のつくり手であるタンナーと、お客様であるメーカーの方と、両方のニーズを満たすために存在しているので、とても共感できます。
橋本
山岸くんはプロダクトデザインを学ぶ中で革の魅力に気づいたと言っていましたが、具体的にはどういうところに惹かれたの?
山岸
やはり応用が効くところですね。革は硬くもできるし柔らかくもできて、使い方によって違う素材のように感じるのが魅力だと思います。
橋本
なるほど。革の特性をしっかり知ってくれていて嬉しいな! 学校で革を使う授業をやっているんですか?
山岸
いえ、学校には革を専門としている先生はいません。そこで個人的にレザー教室に通って教えてもらっています。
橋本
外部のスクールみたいなところに通っているんだね。
山岸
はい。もう85歳の高齢の先生なんですけど、とても丁寧に教えてくれます。
橋本
自分の意思を行動に移せるのはすばらしいことだね。
長沼
実は私もその教室に通っています。
橋本
そうなんだ! 長沼さんも革に興味や親しみがあるということかな?
長沼
はい。ずっとソフトボールをやっていたので、グローブを湯もみして柔らかくするということをやってきました。スポーツを通して革への愛着を育んできた気がします。
橋本
たしかにスポーツの道具にも革はたくさん使われているからね。いろいろな方法で、革の魅力が伝わっていくのは嬉しいな。
Theme02
次のステップへの不安や期待。
人生の岐路に立つ今、思うこと。
橋本
ふたりは3年生なので、来春にはもう卒業ですよね。この先の進路はもう決まっていますか?
山岸
はい。僕は革職人を目指して、兵庫県の豊岡にある専門学校に進学する予定です。
橋本
専門学校を卒業後、さらに別の専門学校に行くっていうこと?
山岸
そうなんです。工房などを対象に就職活動もしましたが、とある企業の方に、いま入社しても下積みの期間が長くなるので、もっと深く学んでからの方がいいと言われて。
橋本
たしかに現役の職人さんたちは「師匠」と呼ばれる人たちの背中を見ながら成長していった世代という印象があります。つまり革業界では“教える”という文化があまり浸透していないのかもしれません。そういった事情が、他の業界と比べて、若手の職人が少ない理由のひとつなのかもしれないね。
山岸
そこでとりあえず『レザーソムリエ』の資格を取ることにして、合格した結果、工場見学にいけることになりました。そこで働いていた職人さんが通っていた専門学校を教えてもらい、春からはそこに通います。
橋本
長沼さんは卒業後、どんな進路を?
長沼
私は就職先が決まったので、春からは社会人として働きます。
橋本
それはどういう会社ですか?
長沼
主に企業のSNSの運用代行をするマーケティング会社です。
橋本
そうなんだ。僕の会社もSNSに力をいれていますが、やっぱり自分たちだけで運用するのは難しい面が多々あります。時代のニーズにあった仕事ですね。
長沼
特に老舗企業は、オンライン施策に弱い傾向があるようなので、その力になりたいですね。
橋本
いつか革関係の企業にも営業に来るかも知れないですね。その時まで僕のことを忘れないでください(笑)
橋本
新生活に向けて、今はどんな心境ですか?
長沼
はじめて一人暮らしをするので、不安もありますが、楽しみという気持ちの方が大きいですね。
橋本
社会人になるうえで、何か心配なことはある?
長沼
強いていうなら人間関係ですね。学生時代の先輩と後輩とは違うような気がしていて……。そこはすこし不安かもしれません。
橋本
僕も社会人になる時には、長沼さんと同じように感じていました。特に1年目はみんなが自分より年上だからね。でも今では全員をライバルだと思うようにしているかな。
長沼
年上の先輩もライバルだと考えるんですか?
橋本
そうだね。先輩たちは経験が豊富なので、仕事もバリバリできます。だけど社会に出たら年齢は関係ありません。「いつか追い抜いてやる」という気持ちを大切にしていますね。
山岸
僕も不安なことがあります。ひとりで黙々と作業に没頭することが多い職人さんは、性格が内向的になっていかないものでしょうか。
橋本
大切なのはオンとオフの切り替えだと思います。だから山岸くんも仕事以外でリフレッシュできる方法を見つけるといいかもしれないね。
山岸
つまり趣味を持つということですか?
橋本
そうそう。ランニングや映画鑑賞、友人とお酒を飲むなど、どんなことでもいいと思います。そういう息抜きがないと、必ずしんどくなる時が来ちゃうから。
山岸
分かりました! 学生のうちに、ものづくり以外で好きだと思えることを見つけてみようと思います。
Theme03
時代を担う若い世代に、気軽に、
そしてより深い革との触れ合いを。
橋本
環境的な観点で、革がよくない素材だという誤解をしている人がいるのですが、おふたりはどうですか?
山岸
僕はそういう風には考えていません。そもそも革は動物を食べた後に残る皮を再利用した副産物。むしろとてもエコロジーな素材であることがあまり知られていないだけだと思います。
橋本
正しい認識を持っていて感心しました。レザーソムリエの資格を取る時に知識を得たの?
山岸
革が副産物だと最初に知ったのは小さな頃に読んだ絵本です。その後、レザーソムリエの勉強をする中で、きちんと理解しました。
橋本
では革を使うことや、革製品を買うことに抵抗はありませんか?
山岸
まったくありません。それどころかもっと革について知りたいという気持ちが大きくなり、結果的に革職人を目指すまでになりました。
橋本
長沼さんはどうですか?
長沼
私も山岸くんと同じで、悪いものだと思っていません。なぜなら革製品は他の素材のものと比べて長く使うことができます。それに使えば使うほど味が出て、愛着も強くなっていくのも特徴のひとつです。つまりとてもエコロジーで、時代に合っていますよね。
橋本
おふたりの意見を聞いて安心しました。最近はネットやSNSによって得られる情報が増えたこともあり、間違った知識もどんどん広がっています。そういう誤解をなくして、正しい知識を伝えていくためには、ふたりのような若い人の力が必要不可欠です。
山岸
最近では『ビーガンレザー』というものもよく聞きますが、橋本さんはどう考えていますか?
橋本
名前に『レザー』とついているので、決して“敵”ではありません。とはいえ、非常に難しい存在とも言えます。というのもビーガンレザーには少なからず石油製のプラスチックが入っているので、実は一概にエコだとは言い難いんです。
山岸
もうひとつ相談があります。僕ら学生にとって、革は高級素材です。それもあって若い人たちにとって、身近な存在ではなくなっている気がして……。
橋本
そうかもしれないね。ちなみに山岸くんはどんなところで革を買っていますか?
山岸
僕はとあるイベントで知り合った革の卸業者の方から端切れをもらうことが多いですね。
橋本
すごい行動力だね! イベントに行って直接交渉したってこと?
山岸
はい。会場で「もし端切れが余っていたらもらえませんか?」と聞きました。そのおかげで、いろんなものがつくれています。
橋本
僕たちの会社が運営している『KAWAMURA LEATHER』という小売店でも、端切れを販売していますよ。それにお店で働いているのは、革が大好きな若い人ばかり。ふたりとは同世代だと思うので、きっと話すだけでも楽しいかもしれません。
山岸
僕らが行ってもいいんですか?
橋本
もちろん! 学生の方でも買いやすい価格のものも用意しているので、気軽に遊びに来てください。
長沼
革屋さんって行きづらい印象がありますが、同世代の方がいると安心ですね。
橋本
彼らも革が好きで、いろいろと学びながらお仕事をしています。みなさんのような世代が、もっともっと革と触れ合ってくれると僕も嬉しいです。
山岸
僕はあと1年、学校に通うので、いつかお伺いするかもしれません!
長沼
私もまだつくりたいと思っているものがあるので、行ってみたくなりました!
橋本
ぜひぜひ。今日おふたりと話す中で、どんな人でも気軽に入れる革屋があるということを、もっと発信しなければいけないと感じました。いろんなお話が聞けて、またたくさん気づくこともあり、とてもいい機会となりました。今日は本当にありがとうございました!!
山岸 紀善さん
日本工学院八王子専門学校
デザイン科
プロダクトデザイン専攻