東京レザーフェアに出展する川村通商株式会社の橋本航平氏が、『日本工学院八王子専門学校』を訪れた前回。
それからわずか3日後、今度は学生のふたりが川村通商株式会社が運営する革の小売店『KAWAMURA LEATHER』を訪問します。同社が展開するさまざまな事業に関わる説明を聞いた後、数多くの革に触れ、さらに橋本さんのご好意により、簡単な革小物の製作を体験するという、ふたりにとって濃密な1日となりました。
この記事ではその様子をたくさんの写真とともにレポートします。
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まずは“知る”ことから。
会社のこと。仕事のこと。そして革のこと。
今回、日本工学院八王子専門学校に通う山岸紀善さん(以下:山岸くん)と長沼亜莉沙さん(以下:長沼さん)が足を運んだのは、国内外の上質な革を1枚から販売している『KAWAMURA LEATHER』。ここは橋本航平氏(以下:橋本さん)が務める川村通商株式会社が運営している革の小売店です。
川村通商株式会社は東京・台東区に本社を構える専門商社。あらゆる皮革や靴資材に加えて、食肉・羊腸といった家畜関連製品の輸出入・販売を行っています。創業は大正元年。長きにわたり我が国の皮革業界を最前線で支えてきました。
案内役となる橋本さんは皮革業界においては若手と言える20代。インポートレザーの輸入に関わる業務を担当し、現地のタンナーと親密なコミュニケーションをとりながら良好な関係を築いているそうです。彼が考えるイタリアの革の良さは、厚みがあり、特徴的な加工をしているものが多いところ。そして何より、それをつくっているイタリア人の人間性が好きだと語ります。
これまで主に国内のメーカーを相手に事業を行ってきた同社が、2018年にオープンした『KAWAMURA LEATHER』。「ものづくりする人を応援したい」というコンセプトを掲げ、より多くの人に革を身近に感じてもらいたいという思いのもとに運営されている小売店です。
店内には色鮮やかな革が無数にディスプレイされているだけでなく、奥のスペースでは工房が併設されるというめずらしい設計。ここで購入した革であれば工房の機械を使うことができます。以前、訪れたことがあるという山岸くんは「この機械を使えると思わなかった」と驚いた様子でした。
さらに2022年に開設されたのが、近年のものづくりブームに対応した靴資材のオンラインショップ『issoku』です。靴づくりは工程も多く、知識がない一般人にはかなりハードルが高いもの。その難しさが故に、どんどんと職人の数が減ってきているという問題もあります。革小物をつくった経験がある山岸くんと長山さんは「一般のユーザーが靴に関わる資材を購入できるサイトはありがたい存在だ」と話していました。
事業に関する説明をひと通り聞いた後は、お待ちかねの革を見ていきます。まずは店内にある無数の革の中から橋本さんがおすすめ商品を厳選して紹介。はじめに見せてもらうのはイタリアから輸入した『アラスカ』です。表面に『ロウ加工』が施されていて、触ると独特のヌメリがあるのがポイント。また擦ると下地の染色が出てくるのも特徴です。
つづいて紹介されたのは『マルゴー』です。指でなぞったところに跡がつく『スクラッチ加工』に興味津々な学生のふたり。染色が得意なタンナーさんがつくっていることから、カラーバリエーションが豊かなことなど、細かい知識が橋本さんから伝えられました。
最後は3.5mmの厚さがある『テンダー』。表面が滑らかなでシンプルなこの革は、ベルトやバッグのショルダー部分に使われることが多いそう。その革を見ながら、模様を気にしている学生たちに「この模様は牛が生きていた時の傷です。こういう傷は1枚1枚まったく違います。そこが味となり、天然素材として愛される理由ですね」と橋本さんが補足していました。
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次はとにかくやってみる。
気づきと感動に満ちた製作体験を。
革の紹介のあとは、お気に入りの端材を見つけ、工房にて製作体験を進めていきます。
前回の対談で、普段は知り合いの革業者の方から端材をもらっていると話していた山岸くんは、好きな端材を選んでいいと言われて「え! いいんですか!?」と大喜びの様子。一方の長沼さんも、手触りだけでなく、匂いも吟味しながら慎重に選んでいきました。
はじめに体験をするのは『型抜き』の工程。『クリッカー』という機械を使い、油圧をかけて型を抜いていきます。山岸くんはキーホルダーとコースターの型を、長沼さんはキーホルダーとトレーの型を選択。橋本さんから機械を使用する上での注意点を聞き、真剣に作業をしていきます。「ガシャンッ!」という大きな音とともにキレイに型抜かれた革を見て、思わず満面の笑顔が溢れていました。
型抜の次は、革の厚みを均一に削っていく工程です。使用するのは『バンドマシン』という機械。ロール型の刃が内蔵されており、厚みのある革の裏側を漉いていきます。天然の革は、厚みや柔らかさに個体差があるもの。それを一気に薄くするのではなく、厚みを確かめながら少しずつ調整して、理想の厚みにしていきます。
自分で型抜きをした革を、とても緊張した表情で機械に入れていくふたり。漉く前と後とで、革を見比べて厚みの確認をします。
はじめての体験に驚きと感動の連続だった学生ふたり。できあがった革を見つめながら、とてもいい表情をしていました。学校やレザー教室でなく、本格的な革の工房でのものづくりはは、とてもいい刺激になったと思います。
革という素材は、仮に興味が持ったとしても、なかなか気軽には触れられることができないもの。その事実が、この業界に若者が少ない理由かもしれないと橋本さんは話しました。「ものづくりする人を応援したい」という思いでつくられた『KAWAMURA LETHER』は、これから職人をめざす若い世代の強い味方になるはずです。ものづくりを志すすべての人に、この店舗のことを知ってもらい、また活用してもらえることを願います。
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いつまでも記憶に残り続ける
貴重な一日となりました。
最後に今日1日のことを振り返る時間が設けられ、それぞれの思いを聞いていきました。
学生のふたりがはじめに口にしたのは、革の種類の多さ、そして奥深さを知れたという点。革をじっくり見ることはもちろん、プロの方に説明をしてもらう経験はなかなかできないもの。革を見て、触って、加工する。今日の経験はとても貴重であり、今までにない有意義な時間だったと話してくれました。
春からは山岸くんは職人になるために専門学校へ進学、長沼さんはマーケティング会社へ就職することが決まっています。目標や進む道も違うふたりですが、きっとこの日のできごとは忘れられない体験となったはず。
今回の経験によって、革業界、そして革に対するハードルがなくなったと話す学生の横で、橋本さんは安堵の表情を浮かべていました。同世代の3人が、いつの日か、お仕事を通して再開できる日がくるかもしれません。