東京レザーフェアにも出展する『株式会社久保柳商店』で、日々、種々様々な素材を扱う“革のプロ”高津氏が、学びの現場である学校に伺い、学生たちの普段の創作活動や、革に対する基本的な知識、さらにファッション業界の裏話など、さまざまな議題でディスカッションが行われた前回。
今回は学生の2人が、革の取引が行われる現場に訪問。商品を手にしながら、感じたことを語り合い、また疑問の解消に向けた質問をぶつけるなどしながら、濃密な時間が過ぎていきました。
この記事では、その模様をレポートしていきます。
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見渡す限り、革、革、革。
そんな環境に、学生の2人は……。
今回、東京モード学園に通う金蘭さん(以下:ジンさん)と野村莉央さん(以下:野村さん)が足を運んだのは、高津さんがお勤めする株式会社久保柳商店。
東京、浅草の地に数多く存在する革屋の中でも、特に豊富な在庫量を抱え、またオリジナリティに溢れた革をつくり出していることで知られています。
3階のショールームに入った瞬間、2人は革の種類の豊富さに驚いた様子。そこから約1時間にわたって高津さんの説明を受けながら「キップ」や「カーフ」などの素材の特徴やそれぞれの違い、「半裁」と「丸革」、単位としての「デシ」といった基礎的な知識、さらに幅広い加工方法や染色方法があることを学んでいきます。
また生地とは違って、伸びやすい方向・伸びにくい方向があることや、歩留まりを意識して効率的に使うことで価格も抑えられることなど、これからものづくりに携わろうとしている2人だからこそ意識すべき現場の知識を、本物の革を用いながら高津氏は伝えていました。
2人の学生も真剣にその説明を聞き、またそれぞれにたくさんの革を手にとりながら、その質感を確かめつつ、素材としての革への理解を深めていきます。
そんな中でジンさんが心を奪われたのは、赤色のヌバックレザー。「この革でコートをつくりたい」と何度も語っていました。
一方の野村さんが気になったのは、オーセンティックなヌメ革。前回の鼎談で「素材からアイデアが浮かぶことはあまりない」と話していた彼女ですが「この革でつくるなら、ブルゾンかな」と着想を得たようで、クリエイターとしてもステップアップした様子も見られます。
その後もショールームをじっくりと見て回る2人が、とある革の前で足を止めました。「この革はなんですか?」との問いに「よくぞお気づきに!」と一気にテンションを上げた高津氏。それこそが久保柳商店イチオシの商品です。
そのオリジナルアイテムは、桜や屋久杉、栗、さらに奄美大島のドロなどの天然の染料を用いて作られた革たち。偶発的に出来上がる模様を持った一点物の革は、日本人の職人たちが持つ技術力の高さも私たちに伝えてくれます。
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じっくりと、選別。
リーズナブルに、ゲット。
ショールームや倉庫で無数の革に触れ、早くも“お腹がいっぱい”な感もあったジンさんと野村さん。次に向かったのは、1階の販売スペースです。ここは一般のお客様も革を購入できる場所。ハギレやアウトレット品も見られ、価格がお手頃なものも数多く並んでいます。中にはワンコインで買えるモノもあり、街なかにある革の小売店などと比べても、圧倒的にリーズナブルなことが分かります。
意外な販売価格に驚いた2人。クリエイターとしての魂に火がついたのか、自身の作品に使えそうな素材を夢中になった探し始めます。さらに資材連の理事も務める一條代表から「よかったら好きなものをどうぞ」という声をいただき、2人の目はさらに輝き出しました。
まず野村さんは学校での卒業制作で使う革を探すことに。ベースの素材は生地を使う予定ですが、そのアクセントとして革を用いることで、他との差別化を図りたいと話しながら、店頭にあるハギレを次々に手にとっていきます。
一方のジンさんは卒業制作はもちろん、自身のブランドにおける作品づくりや、前々から興味を持っていたレザークラフトに挑戦するための革を物色。満足の行く1枚を見つけたようで「これでブックカバーをつくってみたい」と意気込んでいました。
自分のお眼鏡にかなう革を探しながら、高津氏に「これは何の革ですか?」「これはどこの部位ですか?」といった、先に受けた説明で得られた知識を元にした質問をぶつけるようになった2人。さらに「どういう加工をしていますか?」「まだ薄くしたいけど、そのときに強度は保てますか?」といった、数時間前では考えられないような実践向けの質問も飛び出すようになっていました。
それらに対して、一枚一枚の革を実際に手に取りながら、どういった加工をすることでそれぞれの革の質感が出されているかなどをていねいに答える高津氏。これから業界で活躍していく若きクリエイターに対して、素材としての革の魅力や可能性、そして大いなる表現の幅を知ってもらいたいという気持ちが伺えます。
一通りの商品を見終わり、お気に入りを手にしながら、前述の一條氏にお礼をする2人。一條氏からも「一緒にこの業界を盛り上げていきましょう!」という力強い言葉が聞かれました。
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近い未来、互いに支え合う
関係となることを願って……。
最後にもう一度、はじめに入ったショールームにもどった3名。簡単に1日を総括するための時間が設けられ、革を専門に扱う企業をはじめて訪問した2人の学生の率直な意見を聞きました。
やはり最初の感想として出てきたのは、その種類の多さ、そして色の多さに感銘を受けたということ。また意外と低価格で手に入れられることも知れたようで、これからの創作活動における素材の選択肢の中に、革が入ってきそうだと話してくれました。
また2人とも無数の革を見て、そして自分の手で触れたことで、デザインのインスピレーションが沸きに沸いたと話します。つまりたった半日足らずの経験ではありながら、それを通して「素材から出来上がりのイメージをつくり出す」という、これまではなかったデザインのアプローチができるようになったということ。クリエーションの引き出しが増えたことで、新しいフェーズへの一歩を踏み出せた1日になったのかもしれません。
最後に案内役を努めた高津氏から、まとめの言葉として伝えられたのは、これだけたくさんの革があっても、ここにあるのはまだまだ氷山の一角でしかないということ。世の中には、もっともっと多くの革が存在していて、さらにクライアントやデザイナーのオーダーによってまだ世の中にはない世界に1枚だけの革もつくることができるということが強調されます。
そして自分の作品に革を1回でも使えば、必ずその魅力を存分に味わえて、もっと革のことを知りたくなるし、もっと使いたくなるということも伝えていました。
今春には卒業を迎える2人が業界で活躍するのは、そう遠くない未来かもしれません。この日の経験をきっかけに、自身の創作活動に革を用いることとなり、その調達元として久保柳商店と協業するような日が来れば、業界全体の盛り上がりつながっていくこと、間違いありません。